<“字の芸術゛日本民族舞踊団・横浜公演に寄せて>

「 字の芸術」の可能性

立教大講師
伝統芸能研究・千町の会   川元祥一

文化の再発見・ルネッサンスニ波

“字の芸術”、は日本各地で主に年中行事として演じられる民俗芸能を、洗練された舞台芸術・芸能として表現するものである。民俗芸能をそのまま舞台化けるのではない。そこにある伝統的な表現の基本を時間をかけて学び生かしながらも、新しい舞踊として演じる。

 そこにある違いや変化を一言でいうなら「神から人」への変化だ。年中行事としての民俗芸能は「神観念」を持っている。そのためでもあるが、表現は同じ型の踏襲に価値がおかれる。
しかし”宇の芸術”は神観念を脱却し、伝統的演技をもとにしながら、人の表情・躍動を美やバランス感覚によって表現する。

 このような変化の中に、私はこの国の現代的ルネッサンスをみる。ルネッサンスといえば中世ヨーロッパのそれが知られる。そこでも『神から人』が主要なテーマだった。今更中世ヨーロッパをひきあいにだすのは・・・と思う人がいるかも知れないが、それを第一波とするなら、五世紀くらいたった今新しい二波があっていいと思うのである。特に目本では、その変化ζが暖昧なものになっているからである。

 日本での伝統的文化や芸能の中で、ルネッサンスが語られることはほとんどない。むしろ、そうした変化がないところに価値が置かれ、それが伝統のように恩われる傾向すらある。しかし個別の芸能史や専門的的世界では、それぞれの変化がけっこう語られている。代表的なの猿楽から能への変化だ。よく知られるとおり、猿楽は神杜などに奉納される神事芸能として神観念を持っていた世阿弥親子がそれを人間の芸に変革したのである。

 実は同じ例がたくさんある。歩き巫女として、民俗芸能の神観念の世界にいた出雲阿国が人間の世界、特に女の魅カを前面に押し出して演じた歌舞伎や海の豊漁の神としてのエピス像を回す『エピス舞」から始まった、人形浄瑠璃・文楽など。現代この国の伝統芸能を代表するこれらが「神から人」の変化をもっている。しかもヨーロッパルネッサンスとほぼ同じ時期だ。
これをこの国のルネッサンス第一波と私は考える。

ただこの国ではそれが意識されなかった。そのためでもあるが、今ではそれら代表的伝統芸が型の踏襲と、世襲化される傾向が多い。こうした傾向を変革しようとする新しい動きがあって期待できるのであるが、その新しい動きとともに、もう一度原点にかえり、新し現代的感覚で演じる”字の芸術”に大きな可能性を感じるのである。そしてその可能性を、意識しながら進めるルネッサンスニ波と呼びたい。